かわら版 No.1412 『ざる法を巡る迷走』
2024/06/10裏金事件をはじめとする政治とカネを巡る不祥事を根絶するために、衆院に政治改革特別委員会が設置されたのは4月11日でした。自民党が政治資金規正法改正案を提出したのは5月17日。特別委で実質審議が始まったのは5月22日からでした。
注文していた蕎麦がやっと出てきましたが、企業団体献金、政策活動費、政治資金パーティーといった具はなし。小ぢんまりとした抜け穴だらけの「小ざる」でした。問題を矮小化して乗り切ろうとする魂胆が丸見えであり、野党のみならず与党公明党ですら「食えたもんじゃない」と、突き返しました。
自民党は公明や野党の要求を受けて、5月29日に修正案の概要を提示しました。しかし、抜本改革には背を向けたままでした。「同じ穴のムジナ」という批判を恐れる公明の賛同も得られませんでした。
慌てた岸田総理は5月31日、公明及び維新と相次いで党首会談を行い、両党の主張の受け入れを表明しました。政治資金パーティー券購入者の公開基準額は公明の主張を受け入れ、当初案の「10万円超」から「5万円超」に引き下げることにしました。維新とは10年後に政策活動費の使途を公開すること等について、合意文書を交わしました。
党首会談の結果を踏まえて、6月3日、自民党は法案の修正案を提出しました。規正法違反に対し政党交付金を減額する制度の創設、個人献金促進のための税制優遇や外国人によるパーティー券購入の規制など、野党が求めていた提案も盛り込まれています。
しかし、法案の本則にではなく、付則に「検討」事項として明記されていました。検討はするが結論は出さないのが自民党の得意技です。改革項目はたくさん羅列されていますが、実効性のない抜け穴だらけの「大ざる」でした。
ざる法をめぐる迷走はさらに続きました。自民と維新は党首会談で合意したはずでしたが、細部の詰めが甘かったようです。修正案は政策活動費について10年後の領収書などの公開を50万円超の支出に限るとしていました。これに維新が猛反発し、自民は50万円以下も使途を公開する内容に変え、6月4日に再修正案を提出しました。このようなドタバタを経て、天下のざる法が完成しました。
「天ざる」は6月6日、自・公・維の賛成多数により可決され、衆院を通過しました。法案の中身も問題ですが、採決にいたるプロセスにはもっと大きな問題があります。
政治資金規正法や公職選挙法の改正は、競い合うライバル政党との合意が鉄則です。30年前の「平成の政治改革」は、当時の細川総理と河野洋平自民総裁の党首会談で決着しました。政治改革関連法は与党と野党第1党とが丁寧に協議し、一致点を見い出すところに意義があります。
今回は、与党間及び取引可能な野党との党首会談だけで採決に踏み切りました。なぜ立憲民主との党首会談を避けたのでしょう。このやり方は邪道です。政権を交代し、本気の政治改革を実現するしかありません。