かわら版 No.1210 『安倍流指揮権発動』
2020/02/17「幅広く募ったが、募集はしていない」
1月28日の衆院予算委員会で飛び出した安倍総理の抗弁を聞いて、「こんなことまで言うのか」と驚きました。「頭は痛いが頭痛ではない」「手は握ったが握手ではない」と言うのと同じです。総理ご自身の頭の中では違いが整理されているのかもしれませんが、少なくとも私にはさっぱりわかりません。
税金で各界の功労者をもてなす「桜を見る会」に、募ったのか募集したのかという総理の認識はともかく、多数の地元支持者を招いた公私混同を深く反省すべきなのですが…。答弁に立てばはぐらかしの繰り返し。座れば質問者に野次。行儀の悪さがエスカレートしてきています。
続いて1月31日、2月7日に63歳の定年を迎える黒川・東京高検検事長の任期を、半年間特例で延長することを閣議決定しました。今度は「こんなことまでやるのか」という驚天人事でした。
検察庁法は検事総長は65歳、その他の検察官は63歳で退官すると明記しています。定年が延長された前例はありません。現総長が近いうちに退く予定であり、その後任として黒川氏を昇格させるための異例の人事だと思われます。
黒川氏は官邸に極めて近い人物といわれています。安倍政権は使い勝手の良い人物を内閣法制局長官に登用した前歴がありますが、ついに厳正中立であるべき検察のトップまで恣意的に決めようとしています。
先日、ある省の官僚が退官の挨拶に来られました。彼は安倍政権に忠誠を尽くし、献身的に支えた人物でした。「私は安倍政権のために全力で働きました。黒川さんも有能な人だと承知しています。でも今回の定年延長はひどい」と、小さくつぶやいて立ち去りました。霞が関の声なき声を代弁していると思います。
ロッキード事件、リクルート事件など検察は政財官のスキャンダルを摘発してきました。巨悪を眠らせない最後の切り札のような存在です。しかし、例外もありました。昭和29年の造船疑獄では、当時の犬養健法相の指揮権発動により捜査は打ち切られました。今回の検察人事への介入は、安倍流指揮権発動なのではないでしょうか。巨悪が高いびきで安眠できるための布石のように思います。
検察官は秋におりる霜と夏の厳しい日差しを組合せたようなデザインの記章をつけています。厳正な検事の職場とその理想が相まって「秋霜烈日」と呼ばれているバッジです。
カジノを巡る汚職事件を捜査中の東京地検特捜部も、公職選挙法違反容疑で自民党参院議員陣営を捜査中の広島地検も、秋霜烈日の思いを胸に疑惑を解明しようとしています。彼らが萎縮するような事態になれば、もはや世も末です。
政権の暴走を止めるには、強い危機感を抱く政治家と国民の共同戦線しかありません。