かわら版 No.1165 『危うい二国間外交』
2019/02/01計算づくで法外な要求を突きつけてくる国もあれば、ポピュリズムに煽られ道理が通じない国もあります。2国間外交は本当に難しいと思いますが、総理は戦後日本外交の総決算を高らかに宣言しています。その1つが日露平和条約交渉です。領土問題の解決にむけて意欲的であることは結構なことですが、基本姿勢に疑問があります。
総理は昨年11月の日露首脳会談後、平和条約の締結後に歯舞、色丹の引き渡しを明記した1956年の「日ソ共同宣言」を、今後の交渉の基本とすると明言しました。これは歴代政権が粘り強く交渉してやっと勝ち得た、北方4島を明記して帰属の交渉を継続するとした1993年の東京宣言から後退したスタンスです。
総理はなぜ4島返還から、わざわざ2島返還へと軸足を移したのでしょうか。
歯舞、色丹の2島先行返還なら理解できますが、2島で最終決着という可能性もあります。全面積の7%の返還で妥協し、残り93%を断念すれば先人の苦労が全て無駄になります。
総理は過去の交渉を振り返り、昨年11月26日の衆議院予算委員会で「70年間全く変わらなかった」と言い切っていますが、歴代政権の粘り強い努力に対して、敬意を欠いています。
日本側が2島返還へと大きく舵を切っても、ロシア側に変化の兆しは見られません。交渉責任者であるラブロフ外相は「第2次大戦の結果、ロシア領になった」と、相変わらずわが国が到底受け入れることのできない歴史観を主張しています。一方、河野外相は国会審議においても、記者会見においても、日本側の交渉に臨む基本的な立場を明確にしていません。この彼我の差をみると、2島返還どころか石ころ1つ返ってこないかもしれません。ラブロフ外相にいたっては、北方領土という呼称も使うなといっています。
北方領土はわが国の固有の領土であるが、現時点ではロシアによる不法占拠が続いているという、法的立場を変えてはなりません。不法に占拠し続けていれば、いつか日本はあきらめるという誤ったメッセージを周辺国に与え、竹島問題で韓国にエールを送りかねません。
日韓関係は過去最悪です。特に、哨戒機へのレーダー照射はあってはならないことであり、明らかに非は韓国にあるはずですが、わが国の抗議に対して、韓国内の反日感情が高まっています。双方の言い分が真っ向からぶつかっている時、日本は「大人の対応」と称して、協議を打ち切ることにしました。私は、この対応に疑問をもっています。
外交の本質は、国益をかけた戦いです。武力という手段を用いることなく、知識、情報、説得力、発信力などの総力を結集して国益をかけて戦う真剣勝負です。厳しい東アジア情勢を鑑み、わが国が大人の対応で自己抑制しようということでしょうが、途中で投げ出すことは外交敗北です。
何事につけ日韓の最大の問題は事実の認識ができないことです。ですから今回日本は、冷静かつ明晰に事実(ファクト)を示し続け、自らの正当性を明らかにしていくべきです。理不尽な主張にはきちっと反論することも肝要です。そして、しっかりと国際社会にもアピールしていくべきです。