かわら版 No.1136 『米朝首脳会談』
2018/06/18史上初の米朝首脳会談は、壮大な政治ショーでした。「リトル・ロケットマン」だ「狂った老いぼれ」だと罵り合っていた両首脳が、握手を交わし対話を継続することになったことは良かったと思います。しかし、二人が署名した合意文書は、大ざっぱで薄っぺらな一枚紙でした。
最大の焦点は、米国が要求してきた「完全で検証可能かつ不可逆的な非核化」を北朝鮮が受け入れるかどうかでした。しかし、北朝鮮が朝鮮半島を完全に非核化するために取り組むとした、4月27日の南北首脳会談の板門店宣言を再確認しただけでした。いつまでにという時刻表もなく、凍結、実験停止、情報開示、検証といった具体策は一言もありません。
北朝鮮は過去二度(1994年と2005年)にわたり、非核化を約束しています。その過去の合意で北が応じた書き方よりも曖昧な表現になり、明らかに後退しています。しかも、過去の合意はいずれも守られなかったことを忘れてはなりません。米国には相手を信頼せず、非核化の道筋をしっかり検証しながら進めてほしいと思います。
わが国にとって極めて重要な課題である日本人拉致問題については、トランプ大統領は会談で提起したと説明しています。でも、返事は聞いていないようです。子どもの使いじゃあるまいし交渉に値しません。「解決済み」という言及がなかったことを肯定的に評価する政府要人もいますが、黙殺されただけかもしれません。事実、北朝鮮の報道には拉致問題を巡るやりとりはありません。
米朝首脳会談の前に、日米間で首脳・外相・防衛相など様々なレベルで重層的に事前協議が行われました。その際、核・拉致のほかに北のミサイル開発についても話し合われたはずです。米国にとっての脅威は米本土を射程内に収めた大陸間弾道ミサイル(ICBM)ですが、日本にとっての脅威は既に約千発も実戦配備されている「ノドン」「ムスダン」といった中短距離弾道ミサイルです。これらのあらゆる弾道ミサイル計画の放棄を北朝鮮に迫るはずだったのですが、合意文書には全く記述がありません。
11月の中間選挙を意識したトランプ大統領は、準備不足のまま会談に臨みました。一方、金正恩委員長は周到でした。南北首脳会談で融和ムードを演出し、文在寅大統領を籠絡し、「中朝対米日韓」の構図を「中朝韓対米日」に転換しました。そして、G7首脳会談では独りで日・英・仏・独・伊・加のG6を翻弄したトランプ大統領と対等に渡り合い、米韓軍事演習の中止を約束させ、在韓米軍の撤退まで示唆させました。
自信を深めた金委員長は益々手強い存在となるでしょう。安倍総理は日朝首脳会談の実現を模索しているようですが、核・ミサイル・拉致問題について具体的進展がないなら、絶対に経済支援に応じないという強い姿勢で臨んでほしいと思います。