かわら版 No.1118 『ETF』
2018/02/13総理大臣執務室には、為替、株式、債券、原油、金などのマーケットの動きが一目でわかるようなボードがあります。私は金利を常に注目していましたが、安倍総理は株価の動向が最も気になるタイプだと思います。
トランプ米国大統領も同類でしょう。先月末のダボス世界経済フォーラムで、トランプは米国経済が力強く成長していること、株価が歴史的な高値を付けていることなどに触れ、それを自らの政権の政策の結果であると自画自賛していました。安倍総理とよく似ています。
その両首脳も、最近の株価の激しい乱高下には肝を冷やしているでしょう。世界的な株安の引き金は、米国の長期金利の上昇でした。依然として金利上昇の基調は変わっていませんので、当面株式市場は不安定な状況が続くのではないでしょうか。
一般的には、株高が続くことは良いことです。しかし、実体経済から乖離した人為的な株高の演出は、大きな副作用をもたらしかねません。日本の場合、年金資金と日本銀行によるETF購入という2つの公的資金が、株価を下支えしています。
ETFとは、証券取引所に上場している投資信託を指します。複数の株式などを組み込んでつくられています。日本銀行によるETF購入が始まったのは、リーマン・ショック後の2010年、当時委縮していた投資家の動きを再活性化するためでした。当初の買い入れ枠は年数千億円程度でした。その後、黒田東彦総裁が就任して以来、2013年に1兆円、2014年に3兆円、2016年には6兆円とETF購入枠が拡大してきました。
その結果、今年1月20日時点で、日銀のETF保有額は簿価で17兆4373億円です。時価は20兆円に達したと推計されます。株価上昇に沸いた昨年、実は東証一部では個人投資家が約5.8兆円売り越しました。この売りを吸収したのが日銀による6兆円のETF購入でした。株価指数が一定以上に下がるとかなりの確率で日銀が動くことは、経験則として知られています。日経平均株価の2~3000円は日銀が押し上げているという指摘もあります。
少しマクロの話に偏ってしまいましたので、卑近な事例も1つ。毎朝街頭に立っていますが、今年のように厳寒が続くと防寒対策が不可欠です。私は、ヒートテックの下着とダウンジャケットを利用しています。ユニクロで買いました。そのユニクロを展開している「ファーストリテイリング」の筆頭株主は日本銀行です。このように日銀は数多くの主要上場企業の実質的な大株主になっています。
市場の価格形成からも企業統治(コーポレートガバナンス)からも、日銀によるETF購入は問題が多いと言わざるをえません。しかも、株を買ったら最後、売るのは大変です。国債と異なり満期が訪れないため、日銀は能動的にETFを売却しなければなりません。その時は、逆に金融市場の安定を損ないかねません。