かわら版 No.1116 『先送り』
2018/01/29日本銀行は1月23日の金融政策決定会合で、大規模な金融緩和の維持を決めました。そして、黒田東彦総裁は会合後の記者会見で、金融緩和をやめる「出口のタイミングやその際の対応を検討する局面には至っていない」と発言しました。緩和終了を匂わせたらマーケットが過剰反応すると思ったからでしょう。
黒田総裁は就任直後の2013年4月、前年比2%の物価上昇率を2年以内に実現すると宣言し、異次元の金融緩和がスタートしました。以来、5年経とうとしています。この間、2%の物価目標の達成時期は6回も先送りされました。足元の物価の伸びは1%未満にとどまり、実現の見通しは立っていません。
そして、黒田総裁の任期は4月8日までですから、いよいよ任期満了が近づいてきました。目標未達の理由をしっかりと総括し、副作用も含めて出口の検討を行うべきです。今やらなくていつやるのでしょうか。
欧米の中央銀行は出口へ向かい始めています。即ち、緩和を縮小して金融政策を正常化しようとしています。日本だけが緩和を続け、出口政策を語ろうともしないのは異常です。金融政策一辺倒ではデフレから脱却できないことは、かねてより指摘されてきましたが、もはや明々白々です。少なくとも、株高を演出するために日銀がETF(上場投資信託)を6兆円も爆買いするようなことは、早くやめたほうがいいと思います。
アベノミクス第1の矢である大胆な金融緩和の最大の弊害は、財政規律がゆるみ財政再建が遠のくことです。日銀が大量の国債を買い入れ続け、いまや最大の国債保有機関となりました。借金に依存した財政運営を行っている政府にとっては、「打ち出の小槌」を手に入れたも同然です。安倍政権はこの5年間で、国債残高を約160兆円も増やしてしまいました。
その結果、日銀の金融政策決定会合と同じ1月23日、政府は基礎的財政収支の黒字化(国債に頼らずに政策経費を賄う)は2027年度になるという見通しを公表しました。安倍総理は2020年に黒字化するという財政健全化目標を既に断念していましたが、相当に財政再建のペースが遅れていることが明らかになりました。総理も財務大臣も、「財政健全化の旗は決しておろしていない」と強弁していますが、その旗色は白く見えてきました。
安倍政権はもっと老獪かもしれません。日銀による国債大量買入れとゼロ金利政策という超金融緩和によって、利払い費が大きく抑制されてきました。つまり、金融緩和のおかげで利子を気にすることなく借金できました。次の日銀総裁も借金の問題から目をそらすために、緩和継続する人物を選ぶ(黒田再任も含めて)のでしょう。
金融政策の出口探しが先送りされ、財政再建が先送りされれば、その副作用は超特大になることは間違いありません。