かわら版 No.1065 『処遇改善』
2016/12/05「戦後最大の疑獄」と言われたロッキード事件で、田中角栄元総理が逮捕されてからちょうど40年。折しも、元首相を再評価するブームが起き、書店では「角栄本」のコーナーまで設けられています。元首相の功罪については色々ありますが、私は、教員給与の改善を強力に推進したことを高く評価しています。
田中角栄が総理の座に就いたのは、高度成長時代の末期にあたる1972年7月。当時の教員給与の水準は低く、民間企業はもとより、一般公務員との格差も広がるばかりでした。教育界では「優秀な人材が逃げてしまい、学校教育の質が落ちる」という危機感が増大していました。
学校の教員が自宅で塾を開いたり、放課後予備校のアルバイトに行ったりすることが、半ば公然と行われていたそうです。給料が安く、それだけでは食べていけなかったからです。教員は金銭的に魅力のある仕事とは言えず、先生に「でも」なろうか、先生に「しか」なれなかったということから、「デモシカ先生」などと自虐的に呼ばれたりしていました。
この窮状を当時の文部省初等中等教育局長が「金がたくさんかかり大変ですけれど、教員の待遇が悪くて、いい人材が集まらなくなる心配があります。教員給与の改善を」と訴えると、田中総理は即座に「やれ」。この一言が、事態を大きく変えます。
田中内閣は1974年2月に「人材確保法」を制定します。同法に基づき、直ちに3次にわたる教員給与の特別改善が実施され、合わせて25%分の引き上げ財源が投入されて、教員給与は上昇へと大きく反転しました。その結果、優秀な人材が教育界に参入するようになりました。
時は移り、教育を巡っては依然として様々な課題がありますが、いま最も処遇改善が求められている現場は、介護と保育の分野です。先の通常国会において、民進党は介護職員等の月給を1万円引き上げる法案を提出しましたが、与党の反対により否決されました。
今開催中の臨時国会においても、私たちは保育士等の月給を5万円引き上げる「保育士等の処遇改善法案」を提出していますが、与党により審議を拒否されています。政府は平成29年度末までに9万人程度の保育人材を確保することにしていますが、処遇改善なくして保育の現場を目指す人は増えません。
また、保育の質を高めるためにも保育士の処遇改善は不可避です。単に保育士の人数を増やすという面だけでなく、保育のプロ、子どものことを知り尽くしたベテランの保育士を育てていくことが、子どもの命と子どもの育ちを守るには、必要だからです。
11月30日で閉じるはずだった臨時国会は、政府与党の不手際続きで12月14日まで会期が延長されました。せっかく延長したのですから、論点の多いいわゆる「カジノ法案」よりも、処遇改善法案の成立を優先すべきです。
安倍総理には、田中元総理のような英断を求めるのは無理でしょうか。