かわら版 No.1063 『南スーダンPKO』
2016/11/21政府は15日、南スーダンの国連平和維持活動(PKO)に派遣する陸上自衛隊に、新任務「駆けつけ警護」を付与する実施計画を閣議決定しました。駆けつけ警護は、国連や民間活動団体の職員らが武装集団に襲われた際、要請に応じて救援に赴く任務です。任務遂行に必要な武器使用が認められます。派遣部隊は、20日から順次現地へ出発します。
南スーダン共和国が独立したのは、2011年7月でした。世界で1番新しい国への協力を国連から要請され、同年9月から10月にかけて2度の現地調査を行い、同年11月に南スーダンPKOの派遣を決めたのは野田政権でした。その後約5年間にわたり、陸自施設部隊が首都ジュバを中心に道路や橋、空港の補修などのインフラ整備を担ってきました。その活動は南スーダンの国づくりに大きく貢献するとともに、自衛隊の存在感を国際社会に強く示す結果になったと思います。
しかし、昨今の現地情勢は厳しさを増しています。本年7月、政府軍と反政府勢力が衝突し、数百人が死亡しました。今月に入り現地調査を行った国連事務総長特別顧問は、「対立は激化しており、民族紛争が起きかねない状況だ」と述べ、「ジェノサイド(大量虐殺)となる危険がある」と警告しています。
このように南スーダンの状況が極めて流動的な中、自衛隊に武器使用権限を伴う駆けつけ警護という新任務を付与することは、地元の武装グループとの交戦の可能性を高めることにならないでしょうか。私は、自衛隊の装備の脆弱さ、第一線救急救命体制の不十分さなどに懸念があり、自衛隊の安全確保措置が万全かどうかについては大いに疑問があります。
こうした現状も踏まえれば、今後より深刻な事態に急変することが十分に考えられ、PKO5原則に抵触しないとしても、自衛隊が安全に意義のある活動が継続できるかなど、治安状況への判断も求められます。しかし、稲田防衛相の現地調査資料の提出を求めたら、のり弁のようにまっ黒に塗られたものが開示されました。これではまともな議論ができません。
南スーダンPKO派遣を決めたのは野田政権でしたが、一方で、17年続いてきたゴラン高原PKOの撤退を決めたのも私の政権でした。2012年11月16日、私は衆院を解散しましたが、シリア内戦の激化でPKOに参加するオーストリア軍兵士らが負傷する事態も起き、自衛隊に危険が及ぶ恐れがあることから、総選挙の投開票日直前の12月21日、日本のPKOで初めて「要員の安全確保」を理由に撤退を決めました。
自衛隊の撤退は翌年1月15日に完了。同30日にはシリアがイスラエル軍による空爆を発表しました。隊員を無事に帰国させるぎりぎりのタイミングでした。
PKOの派遣も撤退も、最後は自衛隊の最高指揮官である内閣総理大臣の政治判断で決まります。安倍総理は南スーダン情勢を厳しく認識し、撤収も含めた慎重な判断をすべきです。