詳細 | かわら版 | 衆議院議員 野田 よしひこ

かわら版 No.1048 『法の支配』

2016/08/01

  7月12日、国連海洋法条約に基づく仲裁裁判所はフィリピンの提訴を受け、南シナ海のほぼ全域に主権が及ぶという中国の独善的な主張に法的根拠がないと断定しました。同海域において人工島での施設建設や軍事拠点化を進めてきた中国にとっては、大きな打撃だったと思います。中国の報道官がこの判決を「紙くず」と品位に欠ける感情的な表現をしたのも、衝撃と焦りの表われでしょう。


  7月末、日米中や東南アジア諸国などによるASEAN地域フォーラム(ARF)において、日米外相が「仲裁の結果には法的拘束力がある」と述べ、中国に判決の順守を迫ったのは当然です。そして、今後も国連海洋法条約を含む国際法に基づき、南シナ海問題の平和的解決に向けて、中国に対して判決順守を促し続けていくべきです。併せて、紛争をルールに基いて理性的に解決する必要性を、国際社会にも働きかけていかなければなりません。


  言葉を得て、知恵を育んできたはずの人類ですが、近代に至ってなお長らくの間、お互いの争いを最終的には「力」で解決する誘惑から逃れることはできませんでした。二度の大戦と広島・長崎への原爆投下という惨禍を経てもなお、この誘惑を断ち切れていません。


  しかし、人類は、「力」に頼る欲望だけを肥大化させてきたわけではありません。同時に、理性によって冷静に紛争を解決する術(すべ)も育み続けてきました。それが「法の支配」です。


  平和を守り、国民の安全を保障すること、国の主権、そして領土、領海を守ることは国家としての当然の責務です。一方、グローバル化が進む今、国際社会の直面する問題はますます複雑化し、国家間の関係が緊張する事態も生じています。こうした時代においてこそ、世界の平和と安定、そして繁栄の基礎となる「法の支配」を確立すべきです。


  国家間の紛争が国際法に基づいて解決されている現実を、私たちは目の当たりにしています。その代表例は、世界貿易機関(WTO)における紛争処理制度でしょう。「力」ではなく「法」という共通の言語に則って、国同士が貿易紛争を解決してきています。中国も含めてです。


  問題は、世界の各地で未だ数多く存在している領土や海域をめぐる紛争です。国際法に従い紛争を平和的に解決することは、国連憲章の理念であり、国際社会で共有されている原則です。わが国は、どのような場合であっても、この原則を堅持し、国際法に従い平和的な解決を図っていくべきです。


  自国の領土や領海については、きっちりと理論武装しておくべきでしょう。そして、世界の紛争の平和的解決に当たっては、国際司法機関の果たす機能を重視した外交姿勢を貫かなければなりません。9月に中国で開催される主要20か国(G20)首脳会議においても、南シナ海における国際法順守を訴えるべきです。

 

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