かわら版 No.1036 『持たざる者の反乱』
2016/04/11政治家として他国の内政に干渉するようなコメントは控えなければなりませんが、世界のリーダーを選ぶ米国大統領選情勢については率直に言って困惑しています。特に、共和党の候補者指名争い。不動産王のドナルド・トランプ氏が優勢に立っていますが、彼の言動の粗さには驚かされます。
選挙戦中に重大事件が発生した時、候補者がどう反応するかはその人物の本性を知る重要な手掛かりになります。ベルギーのテロ事件が発生した後、トランプ氏は容疑者への水責めを主張しました。テロへの強硬姿勢をアピールしたかったのでしょうが、拷問の提案には耳を疑いました。
その他、「万里の長城を真似た壁をメキシコ国境に築け」といった類の外国人や移民を排斥する発言も数多くあります。また、米国民の職を奪ってきたとして自由貿易や開放的世界経済も否定するなど、あまりにも短絡的です。
とりわけ憂慮すべきは、トランプ氏の外交・安全保障観です。彼はNATO(北大西洋条約機構)への関与を大幅に縮小し、同盟国との関係を基本的に見直そうとしています。「日本や韓国は米軍の駐留の経費を十分負担していない、負担を十分増やさないなら、米軍を引き上げるべきである、その結果自衛のため核武装すると言うなら構わない」とまで、言い放っています。
このような偏狭なナショナリズム、排外主義、孤立主義に凝り固まった「困ったちゃん」が台風の目となっている背景に注目しなければなりません。私は、明らかに大統領の資質に欠けるトランプ氏の支持の原動力は、経済的恩恵を受けていない層の挫折感と怒りだと思います。米国の富を独占する上位1%の富裕層に対する持たざる99%の選挙を通じた騒乱だと見るべきでしょう。
民主党の候補者指名争いにおいても、本命のヒラリー・クリントン前国務長官に対してバーニー・サンダース上院議員が善戦しています。サンダース氏は74歳。候補者としては高齢ですが社会主義者を自認する同氏を、行き過ぎた格差に不満をもつ若者たちが熱狂的に支持しているからです。
ついに弱肉強食の国・アメリカにおいてすら、格差の拡大とその是正こそが民意を占う最大の争点になってきました。今後の動向を注視していきたいと思います。
翻ってわが日本。格差拡大を助長するアベノミクスを評価するのか、共生社会の実現を理念として格差を是正しようとする民進党が伸びるのか。7月の参院選、場合によっては衆参ダブル選挙が天下分け目の戦いとなります。