かわら版 No.1013 『軽減税率で良いのか?』
2015/10/26消費税には所得が少ない人ほど負担が重くなる「逆進性」があるといわれています。そして、消費税の逆進性に苦しむ低所得者の負担を軽減する措置、いわゆる「逆進性対策」は幾つか考えられます。
しかし、政府・与党は2017年4月に消費税を10%へと引き上げることをにらみ、軽減税率を導入することにかじを切りました。「軽減税率」とは読んで字のごとく、税率をより低く設定することを指します。すなわち、基本税率は10%になりますが、食料品などの税率を現行の8%にとどめるということです。
軽減税率の導入というと耳に心地良い響きがありますが、実は様々な問題点があります。
第一は、本来は低所得者向けの施策のはずですが、高所得層もその恩恵に浴するということです。むしろ、高額所得者ほど負担軽減額が大きくなるのではないでしょうか。
第二は、対象品目の線引きが難しいということです。食料品を中心に検討が進むのでしょうが、新聞・書籍代も対象にすべきだという論調もあります。ある有力紙などは業界エゴむき出しのキャンペーンを張っています。線引きは利権発生の源になりかねません。
第三は、事業者、特に中小企業・小規模事業者に大きな負担を与えることです。消費税率が2本立てになれば、帳簿も複雑になります。取引ごとに適用税率や税額を記したインボイス(明細書)も不可欠となるでしょう。
私は、消費税は単一税率を維持しながら、低所得者向けの対策としては、「消費税の払い戻し措置」(給付付き税額控除)を導入するほうが合理的だと思います。民主党案は、統計により一般的に食料品などの購入にかかる消費税額を概算し、簡易に払い戻し・減税を行うものです。
そもそも政府・与党は、民主党も含めて3党で合意した「社会保障と税の一体改革」の精神を忘れているのではないでしょうか。
1千兆円もの莫大な借金を抱えながら、さらなる高齢化に伴う歳出増に揺らぐ社会保障を安定させ、出産・子育て支援にも積極的に取り組んでいかなければなりません。その財源は、将来世代へのつけ回しである国債発行ではなく、全世代が広く薄く負担を分かち合う消費税を充てることにしました。すなわち、消費税は社会保障を支える財源なのです。
そもそも論の精神からいえば、軽減税率導入は減収を招き、社会保障に必要な財源が担保できなくなるということです。予定されている年金の受給資格期間の短縮などに支障が出るでしょう。軽減の対象を広げるほど巨額の財源の穴埋めが必要になります。財政健全化にも影響するでしょう。
果たしてそれで良いのか、という本質的な議論が抜け落ちています。私は、消費税10%引き上げと併せて拙速に軽減税率を導入するのではなく、もっと丁寧に真の逆進性対策を検討すべきだと思います。それまでの間は現行の簡素な給付措置の拡充で対応すれば良いのです。