かわら版 No.917 『消費税』
2013/09/02昨夏、内閣総理大臣であった私は、大きな岐路に立っていました。政治生命を賭けると公言してきた消費増税・社会保障一体改革を、党内融和を優先して棚上げにするか、党内分裂を恐れず決着をつけるかが迫られていました。私は、国家・国民の命運を託されたトップとして、己や党よりも国益を優先する政治決断を下しました。その結果、以降小沢グループを中心に造反者と離党者が続出し、このバラバラ感が総選挙の敗北の最大の要因となりました。
私の決断が、かけがえのない同志たちを死屍累々の惨敗に追いやりました。その重たい責任から逃れるつもりはありません。でも、他に選択肢はありませんでした。「ネクスト・エレクション」(次の選挙)よりも「ネクスト・ジェネレーション」(次の世代)を重んじた選択に悔いはありません。
民主党も何度も修羅場を経験しましたが、自民党・公明党も党内調整には大変なご苦労があったと思います。3党合意のとりまとめに指導力を発揮していただいた当時の谷垣総裁及び山口代表には、心から感謝しています。強いて究極の「たら」「れば」を申し上げれば、昨年9月の民主党代表選や自民党総裁選の前に解散・総選挙を行っていれば、おそらく谷垣さんが総理大臣になっていたでしょう。民主党の獲得議席ももっと多かったはずです。赤字国債法案や1票の格差問題等の懸案についても、「話し合い」解散を前提とすれば解決の道筋を見い出せたと思います。
しかし、社会保障と税の一体改革法案が成立した8月10日、李明博韓国大統領が竹島に上陸しました。15日には香港の活動家たちが尖閣に上陸しました。突如浮上した外交案件が、「近いうち」解散の最短シナリオを狂わせてしまいました。危機管理で手一杯になっている時に、参院で私に対する問責決議が可決され、政党間協議も行き詰まってしまいました。
竹島や尖閣という問題が生起したことは、自民党総裁選において安倍さんには追い風になったでしょう。その安倍さん、社会保障と税の一体改革の議論については、ずっと蚊帳(かや)の外にいました。だから、常に他人事のようでパッション(情熱)を全く感じません。
消費税の引き上げには経済の好転が条件となっていますので、確かに4~6月期の入念なデータチェックは必要です。でも、どう見ても悪い数字ではありません。この経済指標で先送りするなら、わが国は永遠に増税できないでしょう。今更、60人もの有識者のヒアリングを行い、そもそも論を聴取していること自体、奇異に映ります。要は、総理の肚一つです。
アベノミクスが評価されているのは、昨夏一体改革法が成立し、わが国は財政規律を守る国だという前提があるからです。順風満帆に航行している安倍丸が、その船底を蹴破るようなことはまさかないと思うのですが…。