かわら版 No.911 『的外れ』
2013/06/24株価や為替の値動きに一喜一憂している人が多いようです。私は、株でもうかる人が出てくることは良い事だと思います。資本主義社会ですから。でも、それだけで終わってしまっては意味がありません。生活費の捻出に苦労し、株に手を出す余裕もない人たちにも、成長の恩恵が及ぶようにすることこそ重要であると思います。
小泉政権下で竹中平蔵氏が経済政策を主導していた時代を思い出して下さい。「いざなぎ景気を超えた戦後最長の景気」と喧伝されていました。確かに、大きな企業の収益は右肩上がり、株主への配当もたっぷりでした。しかし、働いている人たちの給料は下がり続け、雇用形態も不安定になりました。ワーキングプアという言葉が生まれたのも、あの頃です。戦後最長の景気を実感できた人はほとんどいないばかりか、むしろ格差が拡大したのでした。
私は、同じ轍を踏んではならないと思います。経済を成長させる目的は、国民生活を豊かにすることです。働きたいと思っている人が働けるように雇用を拡大し、頑張れば給料が上がるようにすることに尽きます。
そのような的を、アベノミクスはきちんと狙っているのでしょうか。
第1の矢である大胆な金融緩和は、的外れです。金融政策だけで物価をコントロールできると思いませんし、賃金よりも物価が上昇すれば、国民の生活は苦しくなります。海外の投資家が注目しているのは、「異次元の緩和」だからです。体操競技でいえばウルトラCどころか、EやFの難度の高い技に挑んでいるので、関心が集まるのは当然です。でも、内村航平選手のように見事に着地できるのでしょうか。転ぶのは国民です。
第2の矢の機動的な財政出動は、国土強靭化という美名の下に公共事業をバラマキすることですから、大的外れです。真に必要な公共事業は精査して実施すべきですが、バラマキは意味がありません。そのことは、歴史が証明しています。1990年から2009年までの20年間に200兆円の公共投資が全国にバラマキされました。同じ20年間に約430兆円もの借金がつくられました。でも、日本が良くならなかったことは、皆さんご承知のとおりです。その頃を、「失われた20年」と呼んでいるではありませんか。
第3の矢の成長戦略は、的外れとはいえません。環境・エネルギー分野や医療・健康分野を成長エンジンとする方向性は、的を狙っているといえましょう。しかし、それらを推進するための規制緩和は深掘りされておらず、力不足です。弓を引く力が弱いので、とても的に届きそうにありません。
このようにアベノミクスには、チェックポイントがたくさんあります。7月の参院選の論戦を通じて、そのことを浮き彫りにしていきたいと思います。