かわら版 No.1345 『議長国の責任』
2023/01/162010年11月、京都でAPEC(アジア太平洋経済協力会議)財務大臣会合が開催された時、私は議長を務めました。全体会議の議事進行にとどまらず、各国大臣との個別折衝や共同宣言の文案作成など、重要な国際会議の舞台回しを経験することができました。
様々な国際会議で議長国に注文をつけたり、共同宣言案の修正を求めたりしたこともあります。会議の成否は、議長役の指導力と事務スタッフも含めた議長国の底力に左右されます。
昨年11月のG20サミット(主要20カ国・地域首脳会議)は、インドネシアが議長国でした。粘り強く対話を積み重ね「異なる意見」もあったことを盛り込みながらも、ロシアによるウクライナ侵攻を「強く非難する」首脳宣言を採択しました。困難が予想されていただけに、大きな外交成果だったと思います。にわかにインドネシアの外交力が注目されてきました。
2023年は、日本外交の真価が問われる年です。
日本は今月から2年間、国連安全保障理事会の非常任理事国という大役を務めます。国連安保理は米露英仏中の常任理事国5カ国と、国連総会で選ばれる非常任理事国10カ国で構成されます。その安保理の1月の議長国が日本です。
ロシアによるウクライナ侵攻は明らかに国際法違反ですが、安保理はいまだ法的拘束力のある決議を採択できていません。北朝鮮による相次ぐ弾道ミサイル発射への対応をめぐっても、有効な手立てを打てないでいます。
分断と機能不全が目立つ国連安保理において、年明け早々から日本のリーダーシップが厳しく問われます。
今年わが国は、G7(先進7カ国)の議長国も務めます。5月には広島市でサミット(首脳会議)も主催します。被爆地での開催ですから、「核兵器のない世界」が主要議題になるでしょう。核軍縮の具体的な道筋を描けるかどうか、岸田総理の手腕が試されます。
G7サミットでは、議題の設定は議長国に委ねられています。価値観を共有するG7が、いかに結束してロシアによるウクライナ侵略に対応するかは必須です。加えて日本はアジア唯一のG7メンバー国ですから、北朝鮮、台湾を含む東アジアの安全保障を主要議題に据え、欧米の関与を確保すべきでしょう。
議長国はサミットへ招待する国も選定できます。今年のG20議長国のインド、ASEAN(東南アジア諸国連合)議長国のインドネシア、あるいはオーストラリアなどを招き、G7とインド太平洋地域の連携を強化することも重要でしょう。
国際情勢が厳しい年において、日本は奇しくも安保理やG7の議長国を務めることになりました。その責任は極めて重大です。日本外交の真価が問われる年がスタートしました。