かわら版 No.1341 『教員離れ』
2022/12/12コロナ禍とロシアによるウクライナ侵攻によって、世界中が翻弄された1年が暮れようとしています。日本はそれらに加えて、円安の進行に悩まされた2022年でした。
円を売ってドルを買う動きにとどまらず、世界の主要通貨に対する円の通貨としての総合的な実力(実質実効レート)は、50年前の水準にまで低下してしまいました。つまり、今の円安は日米の金利差では片付けられず、日本の国力低下の表れとみるべきです。
戦後の経済復興を支えた日本の底力は、教育立国の精神だったと思います。そして、資源の乏しいわが国が落日の危機から脱するためにも、子どもへの投資、すなわち未来への投資が不可欠です。ところが、国の底力となるべき教育の現場も、極めて憂慮すべき事態に陥っています。
2022年度採用の公立小学校の教員試験の競争倍率が全国平均で2.5倍と、3年連続で過去最低を更新しました。1979年度から調査が開始され、2000年度に過去最高の12.5倍を記録してから、教員離れが止まらなくなっています。
千葉県の倍率は2.0倍で、全国平均を下回っています。16の県や政令指定都市では、一般的に採用者の質の維持が難しくなる水準とされる2倍を切りました。採用倍率の低下は、長時間労働の改善が進まず、労働負担が大きいというイメージが主たる要因でしょう。
東京都内の公立小学校では、今年度当初で約50人だった教員の欠員が、夏休み明けの9月1日時点で約130人にまで増えました。病気、産休・育休など休職者の増加が原因とみられ、年度途中の補充は難しいため、校長ら管理職が教壇に立ったり学校がハローワークに求人を出すなど、現場は大変苦労されているようです。
教員離れや慢性的な教員不足は、働き方という労働問題にとどまらず、国を支える人材育成全体に悪影響を及ぼしています。子どもたちがその潜在能力を最大限発揮できるようにするためには、教育現場に有為な人材が集まってこなければなりません。
今秋、幕張の神田外語大で開催されたトークイベントで、教育のノーベル賞と称される「グローバル・ティーチャー賞」で日本人初のトップ10に選出された髙橋一也先生と、対談する機会がありました。その時、情熱と教える技術を併せ持った優れた教師に出会えば、子どもの力は飛躍的に伸びるだろうと実感しました。
質の高い教師を確保するためには、まず学校の働き方改革をすすめ、ブラックなイメージを払拭することが不可欠です。そのためには、教職員定数の改善や必要な教育予算の確保を実現しなければなりません。
さらには、かつて田中角栄内閣が「人材確保法」を導入し教員の待遇改善を大胆に行ったように、有為な人材がたくさん集まる魅力的な職場にしなければなりません。