かわら版 No.1201 『追悼・中曽根元総理』
2019/12/09中曽根康弘元総理が11月29日、お亡くなりになりました。享年101歳。大往生でした。心よりご冥福をお祈り申し上げます。
私が衆院選に初めて当選したのは1993年ですが、中曽根元総理もまだ現役の衆院議員でした。本会議場の議員の席は、各会派とも当選回数が少ない議員ほど演壇から見て前のほうに座り、当選回数を重ねた議員になるほど順次後方の席に座っていきます。本会議場は演壇を中心とした半円形で、すり鉢のように傾斜がついて議席が並んでいます。後方になるほど位置が高くなっていきます。
最前列に近い自分の席から後ろを見ると、自民党席の最後列に中曽根元総理が座っていらっしゃいました。いつも座禅を組むように背筋をピンと伸ばした姿勢でした。凛とした佇まいがあり、存在感が抜群でした。いつの日にか自分も最後列に座るようなことがあるのだろうか、その時に自分はどのような雰囲気を醸し出しているだろうかと、はるか後方を仰ぎ見ながら想像をめぐらせました。
元総理のご逝去の報に接し、期待と不安の入り混じった新人時代を思い出しました。そして、気づいてみれば私も野党側の最後列に座っています。残念ながら、猫背で…。
2008年2月、日韓協力委員会のメンバーとして、中曽根会長に随行して李明博大統領の就任式典に参加しました。元総理と新大統領の会談にも陪席しました。世界のリーダーだった大先輩が、アジアのニューリーダーに帝王学を授けるかのような会談でした。
「外交は国のトップの仕事です。外務大臣はアシスタントにすぎません」「日本、韓国、中国の3首脳会議を定期的に開きなさい。あなたがイニシアチブをとるのがいいでしょう」など、元総理はご自身の経験を踏まえて、数多くの助言をしました。李大統領は真剣な眼差しで黙って耳を傾けていました。大勲位おそるべしだと思いました。
2011年10月12日、第95代内閣総理大臣に就任したばかりの私は、第71~73代内閣総理大臣を務められた元首相の都内の事務所をお訪ねし、教えを請いました。
中曽根元総理から首脳外交の心得として、「サミット(主要国首脳会議)は、30分も話をすれば(指導者として)どの程度の重さがあるのか分かってしまう怖いところだ。よっぽど準備して発言するようにした方がいい」と、ご指南いただきました。肝に銘じてG7やG20に臨みました。
また、「今のような低姿勢で真面目に取り組めば長期政権になる。本人の努力次第だ」と、ご激励いただきました。奮闘努力はしたつもりでしたが、残念ながらご助言を生かせませんでした。
様々なエピソードが蘇ってきますが、強烈なオーラをもった最後の政治家だったように思います。改めて、国家を背負った大先輩に哀悼の誠を捧げます。
合掌