かわら版 No.1082 『弛み(ゆるみ)』
2017/04/2415日は北朝鮮の故金日成主席の生誕105年にあたり、首都ピョンヤンでは大規模な軍事パレードが行われました。この記念日の前後に核実験やミサイル発射が強行される可能性が高いとされ、米国は空母カール・ビンソンを急派し警戒していました。そして、16日早朝、失敗はしましたが弾道ミサイルを発射しようとしました。
この緊迫した情勢の真っ只中、新宿御苑では安倍総理主催による「桜を見る会」が開催されました。総理夫妻が「ももクロ」「乃木坂」といった芸能人たちと高笑いしている映像を見て、私は暗然たる気持ちになりました。朝鮮半島情勢を巡る危機を常日頃声高に語っている人が、この時期に花見をするでしょうか。しかも、岸田外務大臣もこの日は地元・広島に帰郷していました。危機感が足りないと強く指摘せざるをえません。
2012年4月、野田政権は北朝鮮による「衛星」打ち上げ予告を受け、桜を見る会を中止しました。妥当な政治判断だったと自負しています。
危機管理の観点からもう一つ重大な問題があります。それは、総理が依然として私邸から通われていることです。なぜ、執務する官邸から徒歩0分の公邸に住まないのでしょうか。もし北朝鮮が日本に向けてミサイルを発射すれば、約10分で到達します。富ヶ谷の私邸から官邸までは少なくとも車で15分以上はかかります。間に合いません。
米国はホワイトハウス。英国はダウニング街10番地。フランスはエリーゼ宮。中国は中南海。各国首脳はみな職住近接です。
さらに、もう一つ緊張感に関わる問題があります。南スーダンからの自衛隊の撤収です。さる3月10日、安倍総理はPKO部隊の撤収を発表しました。そして、先週、第1陣約70人が帰国しました。5月末までに全部隊を引き揚げることになっています。
もともと南スーダンPKOの自衛隊派遣を決めたのは、旧民主党の野田政権でした。世界で最も新しい国のインフラ整備に貢献してほしいという国連の要請を踏まえた対応でした。以来5年余の長きにわたり、厳しい環境の下で国際貢献の尊い任務を懸命に果たしてきた多くの自衛隊員に心から敬意を表すとともに、お支えいただいたご家族の皆様に感謝申し上げたいと思います。
治安情勢が悪化する中、逐次撤収の殿(しんがり)が最も危険です。合戦上手といわれた徳川家康には、本多平八郎という殿(しんがり)の名人がいました。わが国の自衛隊は、あまり経験がありません。部隊を出動させる時よりも撤収する時の方が困難を伴うことを政府は肝に銘じ、細心の注意を払うことを強く要請したいと思います。
現在派遣されている隊員が最後の1人まで無事に帰国されることを、派遣を決めた時の最高責任者として心から願っています。