かわら版 No.1004 『安心なくして成長なし』
2015/08/177月末、財務省が平成26年度決算概要を公表しました。税収額は54兆円。補正後予算額と比べると、約2.2兆円の増収です。その内訳は所得税が約1兆円、消費税が約0.7兆円、法人税が約0.5兆円となっています。経済成長を反映して税収が伸びるわけですから、一見すると喜ばしい数字です。しかし、子細に分析すると、日本経済の実相が見えてきます。
第1に所得税収約1兆円の伸び。その大半は、配当や株式の譲渡益によるものです。バブル経済を映し出しているといえるでしょう。一方、給与所得による税収増はごく僅かです。アベノミクスが力強い賃金増に結びついているわけではないという証左です。
第2に消費税収約0.7兆円の伸び。昨年度は消費税の8%への引き上げもあり、約15.4兆円の税収を見込んでいましたが、財務当局の見込み違いが発生しました。まずは、思っていた以上に滞納が少なかったこと。次に、中国人観光客らの爆買いが話題になりましたが、彼(女)らの爆食い、爆飲みが予想以上の税収増につながったことです。
第3に法人税収約0.5兆円の伸び。日本銀行は年間80兆円も長期国債の購入を続けていますが、これに伴う日銀に支払われた利子は、法人税及び国庫納付金として政府に移転されます。日銀による法人税納付は約0.2兆円です。この分を差し引くと、企業業績の伸びに比べると法人税収の増加が少ないことがわかります。多くの日本企業は事業を海外にシフトしています。子会社配当は親会社の利益には反映されますが、税収増には直結しないということです。
このように冷静に税収の伸びを分析すると、必ずしも日本経済の実力が増したからではなく、バブル的要素も含め極めて一時的な現象であることがよくわかります。
同じく先月、厚生労働省が平成26年国民生活基礎調査の結果を公表しました。全世帯の生活意識を見ると、「大変苦しい」と「やや苦しい」を合計した「苦しい」という回答は近年増加傾向にあり、今回の調査では初めて6割を超え、62.4%に達しました。これに対し、「普通」という回答は、今回34.0%にとどまりました。かつては「1億総中流」と言われた時代がありました。バブル崩壊直後も「普通」は過半数を超えていました。しかし、今や「中流」にあたる層は全体の約3分の1まで減ってしまったということです。
財務省と厚労省の2つの調査結果から明らかになったのは、円安株高を誘導するアベノミクスの下で上っつらの数字は好転しているように見えますが、日本人の暮らし向きは着実にゆとりが失われ悪化しているということです。バブリーな経済政策よりも「安心なくして成長なし」の理念の下、中低所得者を対象とする社会政策に力を注ぎ「分厚い中間層」の復活をめざすべきです。そもそも、消費性向は高所得層よりも中低所得層の方が大きいのです。中低所得層の所得が増えた方が需要創出効果も大きくなるはずです。