かわら版 No.1001 『強行採決』
2015/07/21今国会最大の争点となっている安全保障関連法案が、15日衆院特別委員会において強行採決されました。翌16日には衆院本会議で自公両党の賛成多数で可決され、同法案は衆院を通過しました。
与党側は、審議時間が116時間に達し、審議は尽くされたとして採決に踏み切りました。しかし、各報道機関の世論調査で8割以上が「政府の説明は不十分」と回答しています。そして、国会で議論すればするほど国民の反対の声が高まってきました。安倍総理自らも「残念ながらまだ国民の理解はない」と認めています。ならば、なぜ審議を打ち切ったのでしょうか。国民の理解がないまま、戦後の安保政策の根幹を勝手に変えていいはずがありません。
政権与党は、困難な課題から逃げてはなりません。国論を二分するようなテーマや不人気な政策でも、国益を踏まえて決断しなければならない時があります。その前提は、誠実かつ丁寧な説明を心がけ、粘り強く国民の理解を得る努力を怠らないことです。
野田政権が挑んだ社会保障と税の一体改革も、極めて困難な政策課題でした。社会保障の充実・安定化のための財源確保を目指すとはいえ、消費税増税には強い抵抗感がありました。しかし、衆院129時間、参院86時間の長時間審議を経て、最後は野党だった自公両党の賛成も得て粛々と法案を成立させることができました。国民世論ももろ手を上げて賛同することはできないが、万やむを得ないという空気に変わったように思いました。
ところが、今回の安保関連法案の質疑においては、総理や閣僚が答弁を重ねれば重ねるほど国民の反対や疑問が増え続けるという、いままでになかった現象が生じました。憲法の解釈を変更し限定的な集団的自衛権行使を認めようとする法案ですが、歯止めの説明に説得力がなく、際限なく武力行使する国になるのではないかという不安を払拭できないからです。
まるで、紀尾井町のホテル・ニューオータニに入った感じです。本館の1階から2階に上がります。その本館2階をずっと歩いていくと別館につながっています。気づいてみると別館の5階にいます。入口と出口ではフロアが違うのです。同ホテルは違法建築ではありませんが、法案は違憲と指摘をする専門家も数多くいます。
しかし、政府与党は憲法学者、歴代内閣法制局長官経験者、長らく安保政策の責任者を務めてきた自民党元議員が何を言っても耳を傾けようとしません。総理に近い自民党若手による勉強会では、言論封殺を促すような発言が続出する始末。穏健な保守の姿は全く見えず、陰険な保守が跳梁跋扈しています。
いま安倍総理がなすべきことは、政府案が国民の理解を得ることができなかったことを踏まえ、直ちに撤回することです。仕切り直ししか道はありません。