かわら版 No.988 『逆走』
2015/03/16高齢者による逆走事故が全国で頻発しています。特に、認知症を患うドライバーによる高速道路の逆走事故が増えているようです。このような事態を受けて、3月10日、75歳以上のドライバーが免許を更新する際、認知症の疑いがみられる場合は医師の診療を義務化する道路交通法改正案が閣議決定されました。
75歳以上といえば、嫌な役所用語ですが後期高齢者です。高齢者を前期と後期に分けるのはいかがなものかと思います。昭和初期に生まれた私の父などは、「じゃあ、俺なんかは末期かなぁ」と嘆いています。しかし、75歳を区切りとして、病気にかかったり介護を要するリスクが統計上は高まります。そして、認知症が発症するリスクも明らかに高くなります。したがって、今回の道交法改正も万止むを得ないと思います。
私自身も高齢者による逆走で、肝を冷やしたことがあります。
それは総理在任中の出来事でした。宮中行事があり、首相官邸から皇居に向かっている時です。前後を警備車両にはさまれて総理専用車に乗っていると、その隊列に向かって逆走してくる車が突然現れました。「すわっ、体当たりテロか」と予期せぬ事態に警視庁SPたちに緊張が走りましたが、車は間一髪横を通り過ごして行きました。よく見ると、シルバーマーク付の軽自動車でした。ドライバーのお年寄りの顔も一瞬目に入りましたが、平静というか無表情でした。
このような冷や汗をかいた体験もありますので、法改正の必要性については一定の理解はできます。しかし、高速逆走事故をなくすにはそれだけでは不十分です。
全国の高速道路で発生した逆走事故の約7割は、65歳以上の高齢ドライバーによるものです。逆に言うと、約3割は高齢ではないということです。しかも、逆走事故のうち認知症の疑いのあるドライバーは約37%。すなわち、健常者の事故のほうが多いということです。
私も若い頃に自ら運転をしていて、不慣れな地域で逆走しそうになったこともありました。インターチェンジやジャンクションなど逆走が発生しやすい構造的な問題もあるのではないでしょうか。あるいは高速の出入口の路面標示の不備もあるのではないでしょうか。
逆走事故が後を絶たない原因については、もっと総合的に分析し防止対策を取らなければならないと思います。ぜひ、法案審議の際に十分検討したいと思います。