かわら版 No.963 『危機管理』
2014/08/22広島市北部で20日未明に発生した土砂災害により、多くの尊い命が奪われました。犠牲になられた皆様のご冥福をお祈りするとともに、被災された皆様に心よりお見舞い申し上げます。今月初め、広島で講演や視察をしたばかりでしたので、特に胸が痛みます。
ところで、この大災害に対する安倍総理の対応は適切だったといえるでしょうか。
記録的な集中豪雨により大規模な土砂崩れが発生したことにより、20日午前4時20分に官邸危機管理センターに情報連絡室が設置されました。午前6時30分に広島県は陸上自衛隊に災害派遣要請をしました。同じく6時30分に総理も「政府の総力を挙げて、被災者の救命・救助などに全力で取り組む」ことなどを指示しました。
ところが、その総理自らは午前7時30分に山梨県富士河口湖町のゴルフ場に到着。経産大臣や官房副長官らとプレーを始めました。が、被害拡大の報に接し、4ホール目でプレーを中断し、急きょ災害対応指揮のため官邸に戻りました。被害の大きさがわかってから速やかに上京したのだから、適切な対応をしたと総理を弁護する人もいますが、私はそうは思いません。
危機には、起こるであろう危機「リスク」と、現実のものとなった危機「クライシス」があり、それぞれきちんと管理しなければなりません。今回の安倍総理の場合、いったんはゴルフを始めたのであり、明らかにリスクに対する感度が鈍かったといわざるをえません。
奇しくも、森喜朗元総理も一緒にプレーしたそうです。森元総理といえば、2001年2月の「えひめ丸」事故を思い出します。愛媛県立宇和島水産高校の漁業実習船が米海軍原子力潜水艦に衝突され、沈没した事故発生時、元総理は友人とゴルフのプレー中でした。詳細がわかるまでプレーを続け、結局ハーフで中止して官邸に戻ったのですが、厳しい批判にさらされ政権の命脈が断たれる契機となりました。森元総理の場合は、現実のものとなった危機、すなわちクライシス・マネジメントに問題があったといえるでしょう。森元総理は9ホールもプレーし、安倍総理は4ホールで止めたからまだマシという話では済みません。「えひめ丸」事故は突然クライシスが発生したのに対し、広島の土砂災害にはリスクの段階も存在したのであり、その間にいったんゴルフのクラブを握る感性のほうが問題だと思います。
安倍総理は、官邸に戻り報告の聞き取りや一連の指示を終えると、その日の夜には静養先の山梨県の別荘に戻りました。これまた信じられません。2次災害の危険もある中、多くの人が救命・救急の対応をしている時に…。天皇、皇后両陛下は大きな被害が出ていることを受け、予定されていた軽井沢での静養を取りやめられました。
それにしても、森政権の時に比べると、メディアは総じて安倍政権に甘すぎます。メディア同士の批判合戦ばかりが目立ちますが、もっと政権に対する健全なチェック機能を果たしてもらいたいものです。