北朝鮮が拉致問題などを再調査するという特別委員会を設置し、その見返りに日本は独自制裁の一部を解除しました。2004年の第2回小泉訪朝から約10年、北朝鮮との対話の扉が閉じられていましたので、今回の日朝交渉については私も期待をもって注視しています。
私も総理在任中、拉致を主導したとされる金正日総書記が亡くなり、北朝鮮が新体制に移行する機会を捉えて拉致問題の進展を目指しました。2008年福田政権の時に北朝鮮は拉致問題の再調査を約束しましたが、その後ほどなくして福田政権が退陣し約束は反故にされました。以降、麻生、鳩山、菅と政権は移行しましたが、全く進展がありませんでした。したがって、拉致問題の再調査まで時計の針を戻すことが、私の使命だと考えていました。
チャンスは巡ってきました。遺骨返還や墓参問題で日朝の赤十字交渉が動き出しました。この交渉を政府間交渉にもっていくシナリオを描きました。そして、2012年8月末、日朝間の課長級協議、11月には局長級協議を実現することができました。そして、2回目の局長級協議を12月4、5日にセットしました。
もし、この協議が開催されていれば、拉致問題の再調査を含めて幾つかの項目で合意する可能性が大でした。しかし、局長級協議の直前に北朝鮮がミサイルを発射し、協議はとんでしまいました。そして、12月26日に私は総理を辞め、拉致問題の進展は時間切れになってしまいました。
今年も北朝鮮は、6月に続いて今月に入っても日本海に向けミサイルを発射しました。明らかに国連決議違反です。しかし、私の時と違って安倍政権は日朝交渉を継続しています。わが国と国際社会との分断、とりわけ日米韓の分断が狙いでしょう。
また、今回の協議で日本は拉致問題の解決を最重要視していますが、北朝鮮は遺骨問題を重視しています。おそらく、一柱当たりいくらとそろばんをはじいているのでしょう。この思惑の違いも気になります。
拉致被害者のご家族も高齢化する中で、日本が功を焦っていると足元を見ている感じもします。なかなか一筋縄ではいかない相手です。それでも、この問題については安倍政権に心から頑張ってほしいと願っています。
内閣総理大臣は、拉致問題対策本部の本部長でもあります。私もその重職を経験し、あと一歩のところまでいっただけに、特別の感慨があります。だから今も、胸にブルーリボンのバッジをいつも付けているのです。